自身が信じる"カッコいい"を追求するため、タレントからモデルへと転身したトランスジェンダー女性のKEISHANさん。その美しさと存在そのもののメッセージ性が、多様性のある社会の実現を加速させる。──世界が大きく変わってしまったいま、自分に意味を与え、自分を救えるのは、他人の評価だけとはかぎらない。むしろ、自らに、自らが意味と価値を与えることが、いまほど切実なテーマになったことはないのではないか。「セルフラブ」の方法はいろいろある。新進俳優、ラッパー、ユーチューバー、ティックトッカーなどなどが、「愛で勝つサバイバル術」を伝授する。
大人たちが、根本が、変わらなければ世の中は変わらない
KEISHANさんは、UNIQLOが広告に起用した初めてのトランスジェンダー女性モデル。デザイナーズブランドでもなく、コアでコンセプチュアルなブランドでもなく、「究極の日常着」を掲げるグローバル企業がトランス女性をキャスティングしたことは、いまという時代をよく表している。
「もう本当にビックリしましたね。ホントにUNIQLOですか?ってマネージャーに何度も確認して(笑)。自分の価値観は間違ってなかったし、自分は自分のままでいいんだと、改めて確信できました。感謝の気持ちでいっぱいです」
モデルとしての活動をスタートする前、KEISHANさんは「けーしゃん」という名で活動するタレントだった。そのユニークでチャーミングなキャラクター、股下91cmという抜群のスタイルの良さは、バラエティ番組の"興味"を引いた。
「テレビの世界では、いつも自分がいじめられているような気分でした。台本でも、人とは違うジェンダーについて、面白おかしく扱われていたんです。オンエアのあとに、学校でからかわれるのがすごく嫌でした。大人たちが、根本が、変わらなければ世の中は変わらない。でもテレビの世界では、それは難しそうですね」
どうやったらカッコよくなれるのか─幼いころからの願望を叶えるため、考えに考え抜いたKEISHANさんは、ファッションモデルという仕事を選んだ。
「洋服が大好きだし、自己表現の自由がある。私なりのクールさ、オシャレさを、堂々と魅せることが許されて、求めてくれる。やっぱりモデルしかない!と思いました」
しかし先進的で寛容とされるファッション業界にも、変えるべきところはまだまだ多いと感じている。
「ファッションウィークでも売り場でも、いまだにメンズとウィメンズというセグメントに分かれている。男女という区別がわかりやすくて効率的なのは理解できますが、それを続けていたら、多様性は生まれません。大きなメディア、大きなブランドから変わっていかないといけないと思いますね。海外に比べると、日本はさらに遅れているように思います。日本人として生まれたからには、日本が"時代遅れの国"だなんて思いたくないじゃないですか」
トランスジェンダーのモデルというあり方をひとつのロールモデルとしてとらえ、KEISHANさんはメディアやSNSを通じ、「常に自分らしく!」というメッセージを送っているそうだ。
「自分を愛し、なにを言われても『これが私のスタイル』と主張できる芯の強さ。私が理想とするカッコさよさって、そういうもの。世の中に、完璧な人なんて存在しませんよね。だからこれからも、完璧でないからこそ、あなたは完璧なんだよって、男らしさでも女らしさでもない、完璧な"自分らしさ"で、堂々と生きていいんだよって、伝えていきたいですね」
移動が制限されるパンデミックの渦中だが、いつかは海外のビッグメゾンのオートクチュールのランウェイを歩きたいと夢見ている。もちろん、ただ目立ちたいのではない。トランスジェンダーという存在が、"当たり前"のように輝いていることをもっともっと、世にしらしめたいのだ。
1997年、長野県出身。東京のアパレルショップで勤務中にスカウトされ、タレント活動を開始。『サンデー・ジャポン』(TBS)などのバラエティ番組等で活躍後、モデルに転向。2020-21年秋冬のニューヨークコレクションでランウェイモデルとしてデビューし、UNIQLOによるUTの21年春夏キャンペーンモデルに起用された。